札幌の賃貸経営で、冬に最も手間がかかり、そして最も揉めやすいのが除雪です。
多くのオーナーは除雪を「入居者サービス」の一環として捉えています。しかし法的には、それだけでは足りません。屋根からの落雪で人が怪我をした場合、建物の所有者は「注意していた」という主張では責任を免れられない——これが日本の法律の建て付けです。
この記事では、除雪をめぐる責任の構造を法律にもとづいて整理したうえで、札幌市の排雪制度の使い方、そして管理委託契約で決めておくべきことまでを具体的に扱います。
まず、責任の切り分けを整理する
除雪の責任範囲は、おおむね次のように整理されます。
| 場所 | 責任を負うのは |
|---|---|
| 共用の通路・階段・エントランス前 | オーナー(管理会社に委託している場合は契約内容による) |
| 建物の屋根・庇からの落雪 | オーナー(後述のとおり責任が重い) |
| 専用使用の駐車スペース | 入居者(善管注意義務の範囲) |
| 専用のベランダ・専用庭 | 入居者 |
| 敷地に面した歩道・道路 | 行政(ただし後述の制度あり) |
問題は、これが契約書に書かれていないケースが非常に多いことです。書いていなければ、大雪のたびに「誰がやるのか」で揉めます。
落雪事故は「気をつけていた」では免責されない
ここが除雪の話で最も重要な部分です。
民法717条は、土地の工作物の設置または保存に瑕疵があり、それによって他人に損害が生じたときの責任を定めています。建物や屋根はこの「工作物」にあたります。
責任の順番と、所有者の重さ
この条文の構造は次のようになっています。
- 第一次的には占有者が責任を負う
- ただし占有者が損害の発生を防ぐのに必要な注意をしたことを示せば、責任を免れる
- その場合、所有者が責任を負う
注意すべきは最後の行です。所有者には、この「注意していた」という免責の規定がありません。つまり建物のオーナーは、瑕疵と損害の因果関係が認められれば、過失の有無にかかわらず賠償責任を負うことになります。
実際、雪止め金具の不良により落雪事故が起き、責任が認められた裁判例もあります。「雪止めは付けていた」だけでは足りず、それが機能する状態に保たれていたかが問われます。
事故が起きる前でも、措置を求められることがある
さらに、落雪の危険が高いと認められる場合、隣地の所有者などから所有権にもとづいて落雪防止措置を求められる可能性があります。事故が起きてからではなく、起きる前に対応を迫られることもあるということです。
屋根の形状や雪止めの状態は、冬前に一度確認しておく価値があります。特に築年数が経った物件では、雪止めの腐食や変形が進んでいることがあります。
敷地内の転倒事故も同じ構造
共用の通路や階段が凍結し、入居者や来訪者が転倒して怪我をした場合も、建物の管理が適切だったかが問われます。
降雪のたびに完璧に除雪することは現実的ではありませんが、「どういう基準で、誰が、どの頻度で対応するか」が決まっていて、それが実行されている状態であれば、管理としての説明はつきます。逆に基準も記録もない状態は、事故が起きたときに不利に働きます。
凍結しやすい階段や、日陰になる北側の通路には、融雪剤を常備しておくといった簡単な対策も有効です。
道路の雪:札幌市の制度を知っておく
敷地の外に目を向けると、生活道路の雪は行政の領域です。ここで押さえておきたいのがパートナーシップ排雪制度です。
制度の仕組み
地域住民・札幌市・受託業者が役割を分担して、市が排雪を行わない生活道路の排雪を実施する制度です。原則として交差点から交差点までの一丁間が最小単位になります。
| 道路の幅員 | 費用負担 |
|---|---|
| 10m未満 | 地域と市の双方が負担(地域支払額が発生) |
| 10m以上 | 原則として市が全額負担 |
令和7年度の地域支払額は、標準断面で516,400円/km、抑制断面で361,500円/kmです。市は物価高騰を踏まえ、当面この額を令和3年度の水準に据え置く方針を示しています。
また、地域が負担を抑えられるよう、道路に残す雪の量を多くする「抑制断面Ⅰ型・Ⅱ型」を選べる仕組みも用意されています。
オーナーが見落としやすい2つの点
ひとつめは、申込が町内会単位であること。個々のオーナーが単独で申し込む制度ではありません。物件の所在する町内会が申し込まなければ、その道路は対象になりません。
賃貸物件のオーナーは町内会との接点が薄くなりがちで、制度の存在自体を知らないまま冬を越しているケースがあります。所有物件のエリアがこの制度を利用しているかどうかは、確認しておく価値があります。
ふたつめは、申込期間が短いこと。令和7年度の申込期間は12月18日から1月8日まででした。雪が積もって困ってから動いても間に合いません。しかも実施はシーズンに1回のみで、市民助成トラック制度との重複利用はできません。
敷地内の除雪:契約で決めておくべきこと
管理会社に委託しているなら、次の項目が契約や運用に含まれているかを確認してください。曖昧なまま冬に入ると、大雪のたびに調整が発生します。
- 除雪の範囲はどこまでか(通路・階段・駐車場の通路部分・ゴミステーション前など)
- 出動の基準は何cmの積雪か。判断は誰がするのか
- 頻度と時間帯はどうか(朝の出勤前までに終わるのか)
- 費用の上限と、超えた場合の承諾ルール
- 排雪(敷地外への搬出)は含まれるのか、別料金か
- 屋根の雪下ろしは誰の判断で、誰が手配するのか
特に排雪は見落とされがちです。除雪は敷地内で雪を移動させるだけなので、シーズンが進むと置き場所がなくなります。駐車場の一部が雪山で埋まり、契約している台数を確保できなくなれば、入居者との別のトラブルに発展します。
雪の置き場所を設計として考える
物件を取得する段階、あるいは駐車場のレイアウトを見直す段階で、シーズンを通して雪を置ける場所があるかを確認しておくことをおすすめします。
敷地に余裕がない物件では、毎シーズン排雪費用が発生し続けます。これは札幌の物件を評価するうえで、家賃や利回りと同じくらい実質的な要素です。
設備投資という選択肢
ロードヒーティングや融雪槽の設置は、除雪の手間を根本的に減らします。ただし設置費用に加えて、稼働にかかる燃料費・電気代が毎シーズン発生します。
導入を検討する場合は、初期費用だけでなく年間のランニングコストと、それによって削減できる除雪委託費を比較してください。稼働時間の制御ができる機種かどうかでも、コストは大きく変わります。
小規模な対策としては、共用部にスコップとママさんダンプを備え付けるだけでも、入居者が自主的に動ける余地が生まれ、苦情が減ることがあります。
まとめ
- 屋根からの落雪について、建物所有者には「注意していた」という免責が認められない構造になっている
- 雪止めの状態は冬前に確認する。腐食や変形は事故の直接原因になる
- 共用部の除雪は基準と記録があることが、管理としての説明になる
- パートナーシップ排雪制度は町内会単位の申込で、期間も短い。事前に確認しておく
- 契約では範囲・出動基準・頻度・費用上限・排雪の有無を明確にする
- 雪の置き場所があるかどうかは、物件評価の要素として見る
除雪は費用がかかる一方で、やらなければ賠償リスクが発生し、やり方が雑なら退去理由になります。誰がどこまでやるのかを冬の前に文書で確定させておくことが、結局いちばん安く済む方法です。
この記事について
本記事は一般的な情報の整理であり、個別の法律判断を提供するものではありません。実際の事故や責任の判断にあたっては、弁護士等の専門家にご相談ください。制度の内容や金額は変更される場合があります。
参照した情報
- 札幌市「パートナーシップ排雪制度」(費用負担、地域支払額、申込期間)
- 工作物責任:民法717条。落雪事故に関する裁判例の整理はさいとうゆたか法律事務所の解説を参照
金額・制度内容は令和7年度時点のものです。最新の情報は札幌市の公表資料でご確認ください。




