管理会社に募集を任せるとき、「うちに専任でお願いします」と言われることがあります。あるいは「他社にも出しますか」と聞かれることも。
ここで多くの解説記事が誤解を広めています。「賃貸にも一般媒介・専任媒介・専属専任媒介の3種類があり、専任なら2週間に1度の報告義務がある」といった説明です。
賃貸借の媒介には、この規制は適用されません。この記事では、正確な制度の説明と、そのうえで何を契約で決めるべきかを整理します。
売買と賃貸で、法規制がまったく違う
宅地建物取引業法には媒介契約に関する規定(34条の2)があります。書面の交付義務、専任媒介契約の有効期間の上限、指定流通機構(レインズ)への登録義務、依頼者への業務報告義務——これらを定めた条文です。
ただし、この規定が適用されるのは「宅地又は建物の売買又は交換の媒介」です。
| 売買・交換の媒介 | 賃貸借(貸借)の媒介 | |
|---|---|---|
| 媒介契約書の交付義務 | あり | 法律上はなし |
| 専任媒介の有効期間の上限 | 3か月 | 法律上の定めなし |
| レインズへの登録義務 | あり(専任・専属専任) | 法律上の義務なし |
| 業務報告の頻度 | 専任は2週間に1回以上、専属専任は1週間に1回以上 | 法律上の定めなし |
つまり賃貸の募集委託には、法律が用意した「守ってくれる仕組み」がありません。
これは不利な話に聞こえますが、裏を返せば自由に条件を決められるということでもあります。問題は、決めなければ何も守られないという点です。
賃貸で実際に選べる形
実務上、次のような形が取られます。呼び名は会社によって異なります。
| 形 | 内容 | 向いているケース |
|---|---|---|
| 1社に専任で任せる | 募集の窓口をその会社に一本化する。他社への情報開放はその会社が判断 | 管理と募集を一体で任せたい/窓口を減らしたい |
| 複数社に出す | 複数の仲介会社に直接依頼する | 空室が長期化している/募集力を比べたい |
| 管理会社に任せつつ他社にも開放させる | 窓口は管理会社1社だが、他社仲介からの客付けを受け入れる | 実務上のおすすめ。窓口の一本化と客付けの最大化を両立 |
3番目が現実的な最適解です。オーナーが複数社とやり取りすると、条件の伝達漏れや二重申込みといった混乱が起きます。窓口は1つに保ちながら、募集情報は広く出す——これが両立できる形です。
「囲い込み」を見分ける
1社に任せる場合の唯一かつ最大のリスクが、囲い込みです。
仲介会社にとって、自社で入居者を見つければ貸主・借主の双方から報酬を受け取れる可能性があります。他社が客付けすれば報酬は分かれます。したがって「自社で決めたい」というインセンティブが構造的に働きます。
結果として、他社からの問い合わせに「今、申込みが入っています」と答えて紹介を止める——これが囲い込みです。オーナーから見ると、単に空室期間が延びているようにしか見えません。
見分ける質問
「直近1年で御社が成約させた賃貸のうち、他社仲介が客付けした割合は何%ですか」
数字で答えられる会社は、他社経由の客付けを実際に受け入れています。「ほとんど自社で決めています」という回答は、募集力が強いのか囲い込んでいるのか、どちらの可能性もあります。そこで次の質問につなげます。
「他社仲介が客付けした場合、御社の取り分はどうなりますか」
この答え方で、他社客付けを歓迎する体制かどうかが分かります。
自分で確認する方法
より確実なのは、実際に検索してみることです。
- 主要な賃貸ポータルサイトで、自分の物件の空室を検索する
- 何社が掲載しているかを数える
- 掲載されている写真・説明文の質を確認する
1社しか掲載していなければ、情報が広がっていません。複数社が掲載していれば、少なくとも情報は開放されています。この確認は5分でできます。
委託時に決めておくべき5項目
法律が何も定めていない以上、契約書または覚書に書くしかありません。
| # | 決める内容 | 推奨する書き方 |
|---|---|---|
| 1 | 他社への情報開放 | 「募集情報を他の宅地建物取引業者に広く開示し、他社経由の内見・申込みを受け入れる」 |
| 2 | 掲載媒体 | 「◯◯、◯◯を含む主要ポータルサイトに掲載する」——媒体名を具体的に |
| 3 | 報告の頻度と内容 | 「毎月◯日までに、掲載状況・問い合わせ件数・内見件数・条件変更の提案を書面で報告する」 |
| 4 | 広告料(AD)の扱い | 「AD◯か月分とし、他社が客付けした場合の配分は◯◯とする」 |
| 5 | 期間と見直し | 「3か月経過時点で成約に至らない場合、条件と募集方法を協議する」 |
3番の「内見件数」は必ず入れる
報告項目のなかで、内見件数が最も重要な指標です。理由は原因の切り分けができるからです。
| 状況 | ボトルネック | 打つべき手 |
|---|---|---|
| 問い合わせも内見も少ない | 見せ方・掲載 | 写真の撮り直し、説明文、掲載媒体の追加 |
| 問い合わせはあるが内見に至らない | 条件 | 賃料、初期費用、入居条件の見直し |
| 内見は多いが決まらない | 部屋の状態 | 清掃、設備、におい、共用部の印象 |
この切り分けができれば、闇雲に賃料を下げずに済みます。「決まりません」という報告だけでは、値下げ以外の打ち手が見えません。
5番の「期限を切る」意味
賃貸の委託には法律上の期間制限がないため、放っておくと惰性で続きます。3か月なら3か月で見直しの場を設ける——これを最初に決めておくことが、緊張感の維持につながります。
札幌なら、繁忙期(1〜3月)を1サイクルとして評価するのが実務的です。この期間の成果で、その会社の募集力はかなり見えます。
複数社に出す場合の注意
空室が長期化して複数社に直接依頼する場合、次の点に注意してください。
- 条件を統一する——賃料、敷金礼金、フリーレント、入居条件。会社ごとに違う条件が出回ると、入居希望者が混乱し、信用を落とします
- 鍵の管理方法を決める——キーボックスの設置が一般的です
- 申込みが入ったときの連絡ルールを決める——二重申込みを防ぐため、即座に他社へ止める仕組みが必要です
- ADの条件を揃える——会社によって差があると、条件の良いほうにしか紹介されません
管理は1社に任せたまま、募集だけ複数社に出すという形も可能です。ただし管理会社の協力が前提になるため、事前に相談してください。
まとめ
- 宅建業法の媒介契約規制(書面交付・期間3か月・レインズ登録・報告義務)は売買・交換に適用され、賃貸借には適用されない
- したがって賃貸の募集委託は自由に決められる反面、決めなければ何も守られない
- 実務上のおすすめは「窓口は管理会社1社、募集情報は他社にも開放」
- 囲い込みの確認は「他社が客付けした割合」を聞く+ポータルサイトで何社が掲載しているか自分で数える
- 委託時に決める5項目は、他社への情報開放・掲載媒体・報告内容・ADの扱い・見直しの期限
- 報告項目に内見件数を必ず入れる。問い合わせ/内見/成約のどこで止まっているかで打ち手が変わる
まずは自分の空室が今、いくつのサイトに何社から出ているか——検索して数えてみてください。そこがすべての出発点になります。




