物件が2棟、3棟と増えてくると、必ず出てくる問いがあります。「管理会社は1社にまとめたほうがいいのか」です。
一般には「まとめたほうが管理しやすく、手数料も下がる」と言われます。それは事実ですが、1社集約には、数字では見えにくい代償があります。この記事では両方を並べたうえで、実務的な折衷案を示します。
1社に集約するメリット
1|窓口が1つになる
最も分かりやすい利点です。報告書のフォーマットが揃い、入出金が1本にまとまり、確定申告の集計が楽になります。物件数が増えるほど、この効果は大きくなります。
2|手数料の交渉余地が生まれる
複数棟をまとめて委託する場合、委託料の引き下げに応じる会社はあります。ただし期待しすぎないでください。委託料は家賃の5%前後が相場で、そこから下げられる幅は0.5〜1ポイント程度が現実的な線です。
家賃収入が月100万円なら、1ポイントで月1万円、年12万円。無視できる額ではありませんが、これを理由に他の要素を犠牲にするほどの額でもありません。
3|物件間の融通が利く
これは意外に効きます。同じ会社が複数棟を持っていると、次のような動きが可能になります。
- A棟の内見に来た人が条件に合わなければ、B棟を紹介できる
- 清掃・除排雪の業者を巡回ルートにまとめられ、単価が下がる
- 共通の設備をまとめて発注できる
物件が近接しているほど効果が大きく、離れているほど小さくなります。
1社に集約するデメリット
1|比べる物差しがなくなる
これが最大の代償です。
全物件を1社に任せると、その会社の運用が良いのか悪いのか、判断する基準を失います。空室期間が長くても「そういう市場なのだろう」としか思えません。原状回復費が高くても、比較対象がありません。
逆に2社に分けていれば、次の比較ができます。
| 比べる項目 | 分かること |
|---|---|
| 平均空室日数 | 募集力と原状回復の速さの差 |
| 原状回復費の単価 | 業者の選定と価格の妥当性 |
| 報告書の内容 | 何を管理指標として見ているか |
| 問い合わせへの返答速度 | 体制の差 |
| 提案の質 | 受け身か、能動的に動くか |
同じオーナーの、似た条件の物件で比べられる——これは他のどんな情報より正確です。口コミも比較サイトも、この精度には及びません。
2|依存度が上がる
1社に全物件を預けると、次の場面で身動きが取りにくくなります。
- その会社が倒産・撤退した場合、全物件が同時に問題になる
- 担当者が変わって質が落ちても、全物件が影響を受ける
- 条件交渉で強く出にくくなる(他に選択肢がないため)
特に3番目は実務的に効きます。「もう1社にも相談しています」と言える状態かどうかで、交渉の位置が変わります。
3|1社の得意分野に偏る
管理会社には得意なエリアと物件タイプがあります。学生向けワンルームに強い会社と、ファミリー向けに強い会社は違います。物件の性格がバラバラなのに1社に集約すると、どこかで無理が出ます。
実務的な折衷案──エリアか物件タイプで分ける
「全部まとめる」か「全部バラバラ」かの二択ではありません。実務でよく使われるのは次の分け方です。
| 分け方 | 向いているケース | 得られるもの |
|---|---|---|
| エリアで分ける | 物件が離れている(例:札幌市内と近郊) | 各エリアに強い会社を使える。巡回の効率も落ちない |
| 物件タイプで分ける | 学生向けとファミリー向けが混在 | ターゲットごとの募集力を活かせる |
| 棟ごとに分ける | 近接した同種の物件が複数ある | 最も正確な比較ができる |
| 1社集約+定期的な相見積もり | 物件が近接し、同種で、管理は1本化したい | 効率を保ちつつ、価格の妥当性は検証できる |
最後の「1社集約+定期的な相見積もり」は現実的な選択肢です。2〜3年に一度、他社から提案を取るだけでも物差しは維持できます。実際に変更しなくても構いません。
分散する場合に発生するコスト
分散にも手間はあります。あらかじめ織り込んでください。
- 報告書のフォーマットが揃わない:会社ごとに様式が違うため、集計に手間がかかります
- 入出金の口座が分かれる:確定申告時の整理が増えます
- やり取りの回数が増える:窓口が2つになれば、連絡も2倍になります
- それぞれで交渉力が下がる:まとめて出すほうが条件は引き出しやすい
この手間を吸収するために、オーナー側で報告項目を指定しておくのが有効です。「毎月◯日までに、入出金・滞納・問い合わせ・内見件数を含む形で」と両社に同じ指定をすれば、フォーマットが違っても比較はできます。
判断の目安
| あなたの状況 | 推奨 | 理由 |
|---|---|---|
| 物件2棟、近接、同じタイプ | 分散 | 比較の精度が最も高い条件。物差しを持てる価値が大きい |
| 物件2〜3棟、エリアが離れている | エリアで分散 | 各エリアの募集力を活かせる |
| 物件5棟以上、同一エリア | 集約+定期的な相見積もり | 管理の手間が無視できない規模。物差しは相見積もりで補う |
| 物件が離れており、自分は遠方在住 | 報告体制が整った会社に集約 | やり取りの回数を減らすことが最優先 |
| 今の1社に不満がある | 1棟だけ他社に出す | 全部変えるリスクを避けつつ、比較材料を得られる |
最後の行が実務的におすすめできる進め方です。全物件を一度に移すのはリスクが大きすぎます。1棟だけ他社に出して半年〜1年運用させ、数字を比べてから全体の方針を決める——これなら失敗しても損害は限定的です。
集約する場合に必ず確認すること
1社に集約するなら、次の3点は事前に確認してください。
- 物件ごとに収支を分けて報告してもらえますか
まとめて1枚の報告書にされると、どの物件が足を引っ張っているか分かりません。物件別・部屋別の損益が見える形を要求してください。 - 複数棟をまとめることで、委託料はどう変わりますか
交渉の余地があるかを確認します。応じない場合でも、その理由の説明が合理的かを見ます。 - 万一、御社が管理を継続できなくなった場合、全物件はどう引き継がれますか
集約の最大のリスクへの備えです。分別管理の説明とあわせて答えられるかを確認してください。
まとめ
- 1社集約のメリットは、窓口の一本化・手数料の交渉余地(0.5〜1ポイント程度)・物件間の融通
- 最大の代償は比較の物差しを失うこと。空室期間も原状回復費も、比べる相手がいないと妥当性を判断できない
- 依存度が上がり、条件交渉で強く出にくくなる点も見落とせない
- 実務ではエリア別・物件タイプ別に分けるのが折衷案。1社集約なら2〜3年に一度の相見積もりで物差しを維持する
- 今の会社に不満があるなら、全部移さず1棟だけ他社に出して比べるのが最もリスクの低い進め方
まとめるかどうかは効率の問題ですが、比較材料を持ち続けるかどうかは経営判断の質の問題です。物件が2棟以上あるなら、その優位性を使わない手はありません。




