「下の階の天井から水が垂れてきた」——この連絡が入った瞬間から、時間との勝負が始まります。
水漏れが厄介なのは、被害が時間とともに拡大し、しかも誰が払うのかがすぐに決まらない点です。初動を誤ると、内装の復旧だけでなく、階下住戸の家財、営業補償、そして最悪の場合は複数の退去まで発生します。
この記事では、誰が負担するのかと最初の48時間に何をするのかを整理します。
原因別の負担区分
結論から言うと、原因がどこにあるかで負担者が変わります。
| 原因 | 負担者 | 根拠 |
|---|---|---|
| 給排水管の老朽化・破損 | オーナー | 建物の維持管理責任 |
| 屋根・外壁からの雨漏り | オーナー | 同上 |
| 設備(給湯器・トイレ等)の経年劣化 | オーナー | 同上 |
| 洗濯機のホースが外れた | 入居者 | 入居者の過失 |
| 浴槽の水を出しっぱなしにした | 入居者 | 同上 |
| 排水口を詰まらせた(髪・油など) | 入居者 | 同上(善管注意義務違反) |
| 凍結による配管破裂 | 状況による | 下記参照 |
| 上階の入居者の過失 | 上階の入居者 | 不法行為 |
凍結破損は責任の切り分けが難しい
札幌で最も多い原因が凍結です。ここは一律には決まりません。
| 状況 | 責任の傾向 |
|---|---|
| 凍結防止帯が故障・未設置だった | オーナー側(設備の不備) |
| 長期不在時に水抜きをしなかった | 入居者側(水抜きの説明をしていた場合) |
| 水抜きの方法を説明していなかった | オーナー側に傾く |
| 暖房を止めて長期外出した | 入居者側に傾く |
「水抜きの方法を説明し、書面で渡していたか」が分岐点になります。口頭の説明だけでは、後から争いになったときに証明できません。入居時の書面と、毎年11月の全戸への注意喚起——この2つを記録として残しておくことが、そのまま責任区分の根拠になります。
民法717条──オーナーは無過失でも責任を負いうる
階下や隣室に被害が出た場合、法的な根拠を知っておく必要があります。
民法717条は土地の工作物の設置または保存に瑕疵があり、それによって他人に損害が生じた場合の責任を定めています。建物はこの「工作物」にあたります。
| 順位 | 責任を負う者 | 免責の可否 |
|---|---|---|
| 第一次 | 占有者(入居者・管理者) | 必要な注意をしていたことを証明すれば免責される |
| 第二次 | 所有者(オーナー) | 免責されない(無過失責任) |
ここが重要です。建物の瑕疵が原因なら、オーナーに落ち度がなくても最終的な責任は所有者に及びます。「配管が古かったことを知らなかった」は理由になりません。
だからこそ、定期的な点検の記録を残しておくことと、保険で備えておくことが実務上の防御になります。
保険の使い分け
水漏れの費用は、複数の保険が絡み合います。どの保険が何をカバーするかを、事故が起きる前に整理しておいてください。
| 保険 | 加入者 | カバーする範囲 |
|---|---|---|
| 建物の火災保険(水濡れ補償) | オーナー | 建物の損害(内装・設備) |
| 施設賠償責任保険 | オーナー | 建物の不備で他人に与えた損害(階下の家財など) |
| 入居者の家財保険 | 入居者 | 入居者自身の家財 |
| 入居者の個人賠償責任保険 | 入居者 | 入居者の過失で他人に与えた損害 |
ポイントは2つです。
- オーナーは「施設賠償責任保険」に入っているか——建物の火災保険だけでは、階下の入居者の家財は補償されません。この保険がないと自己負担になります
- 入居者は「個人賠償責任保険」に入っているか——入居者の過失による漏水で、これがないと回収できません。入居時に加入する火災保険にセットされているのが一般的ですが、更新時に切れているケースがあります
入居者の保険の更新管理は、管理会社に確認すべき項目です。「加入していると思っていたら期限切れだった」は実際に起こります。
初動48時間の手順
0〜1時間|止水と被害の拡大防止
- 元栓を閉める——原因が特定できていなくても、まず水を止めます
- 漏電の危険がある場合はブレーカーを落とす——天井裏の配線に水がかかっている可能性があります
- 階下・隣室の状況を確認する——被害の範囲を把握します
1〜3時間|記録と業者手配
- 写真と動画を撮る——漏れている箇所、被害を受けた天井・壁・床、濡れた家財。保険請求と責任区分の両方でこれが証拠になります
- 水道業者を手配する——原因の特定と応急処置
- 被害を受けた入居者に状況を説明する——「原因を調査中」でも構いません。連絡がないことが最も不信を招きます
3〜24時間|原因の特定と保険会社への連絡
- 業者による原因調査。配管か、設備か、入居者の過失か
- 保険会社に事故連絡——請求できるかどうかは後で判断できます。まず連絡だけ入れておく
- 被害を受けた入居者の家財の状況を確認・記録
24〜48時間|復旧の段取りと生活支援
- 乾燥作業を始める——放置するとカビが発生し、被害が二次的に拡大します
- 復旧工事の見積もり取得
- 被害住戸が住める状態かを判断する——住めない場合、ホテル等の一時的な費用負担の検討が必要になります
最も費用が膨らむのは、乾燥が遅れてカビが発生したときです。内装の張り替え範囲が広がり、健康被害の訴えにつながることもあります。「乾くのを待つ」ではなく、送風機・除湿機を入れてください。
札幌の凍結対策──冬前の5項目
札幌では、水漏れの相当数が凍結に起因します。11月までに次を済ませてください。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 1. 凍結防止帯の通電確認 | コンセントが抜けていないか、断線していないか。空室は特に見落とされる |
| 2. 空室の水抜き | 空室こそ凍結の温床。暖房が入っておらず、誰も気づかない |
| 3. 入居者への水抜き方法の周知 | 書面で配布。長期不在時の連絡もお願いする |
| 4. 屋外の散水栓・給湯器周りの確認 | 保温材の劣化・剥がれをチェック |
| 5. 緊急連絡先の再周知 | 凍結は夜間・早朝に発覚することが多い |
2番の「空室の水抜き」は特に重要です。入居中の部屋は住人が異変に気づきますが、空室は誰も見ていません。凍結して破裂しても、発覚するのは階下から水が落ちてきたときです。被害が最大化してから見つかります。
管理会社に確認すること
- 夜間に漏水の連絡が入った場合、何時間以内に業者が現場に着きますか
- 冬期、水道業者が飽和したときの優先順位はどうなりますか
- 空室の水抜きと凍結防止帯の点検は、誰がいつ行いますか
- 入居者の火災保険・個人賠償責任保険の更新は管理していますか
- 過去の漏水事故で、責任区分をどう整理しましたか
3番と4番に答えられる会社は、予防の観点で管理しています。「連絡があれば対応します」だけの会社は、事後対応しかしていません。
まとめ
- 負担者は原因で決まる。配管の老朽化・雨漏り・設備の経年劣化はオーナー、入居者の過失は入居者
- 凍結破損は「水抜きの方法を書面で説明していたか」が分岐点。入居時の書面と毎年の注意喚起を記録に残す
- 民法717条により、建物の瑕疵が原因なら所有者は無過失でも責任を負う。点検記録と保険が防御になる
- オーナーは施設賠償責任保険、入居者は個人賠償責任保険。入居者側の更新切れに注意
- 初動は、止水 → 写真・動画 → 業者手配 → 保険連絡 → 乾燥。乾燥の遅れが被害を最も拡大させる
- 札幌では冬前の5項目。特に空室の水抜きは被害が最大化してから発覚するため最優先
水漏れは起きてからの速さがすべてを決めるトラブルです。夜間・休日の連絡から業者が到着するまでの時間を、今の管理体制で確認しておいてください。




