「人口が減るから賃貸経営は厳しくなる」——よく聞く話です。実際、総務省の令和5年住宅・土地統計調査では、全国の空き家率が13.8%と過去最高を記録しました。
ただし、この数字をそのまま自分の物件に当てはめるのは正確ではありません。賃貸需要を決めるのは人口ではなく世帯数であり、市場は地域とセグメントによってまったく違う動きをしています。
この記事では、統計をどう読むか、そして札幌で実際に起きている3つの変化を整理します。
統計をどう読むか
空き家率13.8%の中身
空き家は次のように分類されます。全部が「賃貸の競合」ではありません。
| 区分 | 内容 | 賃貸市場への影響 |
|---|---|---|
| 賃貸用の空き家 | 募集中の賃貸住宅 | 直接の競合 |
| 売却用の空き家 | 売り出し中の住宅 | 間接的 |
| 二次的住宅 | 別荘など | ほぼ影響なし |
| その他の空き家 | 長期不在・取り壊し予定など | 市場に出ていない |
近年、増加が著しいのは「その他の空き家」——相続で取得したまま放置されている住宅です。これは賃貸市場の競合ではなく、地域の資産価値と生活環境の問題です。
つまり「空き家率13.8%=賃貸の競争が13.8%分厳しい」という読み方は誤りです。自分の物件のエリアで、募集中の賃貸がどれだけあるか——見るべきはそちらです。
人口ではなく世帯数で見る
もう一つの重要な視点です。
賃貸住宅の需要は、人の数ではなく「世帯の数」で決まります。人口が減っても、単身世帯化が進めば世帯数は増えます。実際、日本の世帯数は人口がピークを過ぎた後も増加を続けてきました。
ただし、世帯数もいずれ頭打ちになります。したがって長期の見通しとしては——
- 短期〜中期:世帯数はまだ支えになる。ただし世帯の中身(単身・高齢)が大きく変わる
- 長期:総量は縮小に向かう。選ばれる物件と選ばれない物件の差が開く
「市場全体が縮む」より「二極化する」と捉えるほうが実態に近いと言えます。
札幌で起きている3つの変化
統計の全国平均より、自分の市場で何が起きているかのほうが重要です。札幌の賃貸市場では、次の変化が指摘されています。
変化1|ファミリー層の賃貸回帰
札幌では分譲マンション価格が上昇し、10年で1.5倍程度になったとされます。3LDKが2,000万円台から3,000万円台へ、という水準です。
結果として、購入を見送って賃貸に留まる層が生まれています。2DK〜2LDKクラスのファミリー向け賃貸は、堅調に稼働しているという報告があります。
打ち手
- ファミリー向け物件を持っているなら、単身向けへの転換は慎重に
- ファミリー層が重視する条件を整える——収納、洗濯機置場、駐車場、学区、宅配ボックス
- 長期入居を前提とした設備投資が回収しやすいセグメントです
変化2|高齢入居者の増加
高齢の入居者が増え、受け入れ年齢の上限を引き上げる管理会社が出てきています。65歳から70歳へ、といった変更です。
これは市場の側の変化であり、「高齢者は断る」という運用を続けると、母数を自ら狭めることになります。
打ち手
- 国土交通省・法務省の「残置物の処理等に関するモデル契約条項」を活用する——入居時の備えで、死亡時の契約解除と残置物処理を進められる仕組みです
- 孤独死に対応した保険で金銭リスクを平準化する
- 見守りサービスを導入する——早期発見は特殊清掃を不要にし、告知義務も生じさせません
- 1階、段差の少ない間取り、手すりの設置など、受け入れやすい部屋を1つ作る
断るのではなく備える——これが今後の標準になります。
変化3|学生向け物件の競争激化
従来「放っておいても埋まる」とされた大学近くの駅近物件でも、空室が出るようになっています。地下鉄沿線の学生向け物件で、満室だったものが1割超の空室を抱えるようになった、という報告があります。
背景には、供給の増加、学生の住まい選びの変化(設備重視、セキュリティ重視)、大学のオンライン化の影響などが考えられます。
打ち手
- 「大学の近くだから大丈夫」という前提を捨てる——直近の成約データで判断する
- 学生が重視する条件を確認する——インターネット無料、オートロック、独立洗面台、宅配ボックス
- ターゲットの見直しも選択肢——単身社会人向けに条件を組み替える
- 繁忙期の勝負が特にシビア。2月に決まらなければ、その年は厳しい
変化に共通する示唆
3つの変化を並べると、共通点が見えます。
「これまで通り」が最も危険——需要のあるセグメントは移動しており、同じ運用を続けると、いつの間にか需要から外れる。
ファミリー向けは追い風、高齢者向けは備えれば機会、学生向けは逆風——同じ札幌でも、セグメントごとに方向が違います。
したがって、自分の物件がどのセグメントにあるかを把握し、そのセグメントの直近の動きを見ることが必要です。全国の空き家率を見ても、自分の物件の打ち手は出てきません。
管理委託率の上昇が意味すること
もう一つの動きとして、管理を委託するオーナーの割合が上がっています。国土交通省の調査では、家主の約8割が管理を委託しているとされます。
これは単に「面倒だから」ではありません。
- 市場が二極化するなかで、募集力の差が空室期間の差に直結するようになった
- 賃貸住宅管理業法の施行により、管理業務に求められる水準が明確になった
- 設備・法規制・トラブル対応の専門性が上がり、個人で追いきれなくなった
委託率の上昇は、賃貸経営が「持っていれば入る」から「運用で差がつく」に変わったことの表れです。
いま確認すべき5つのこと
市場動向を自分の物件に落とし込むための質問です。管理会社に聞いてください。
- この物件のエリアで、直近1年の成約賃料はどう動いていますか(上がっているか、下がっているか)
- 同じ間取り・築年数の競合は、このエリアに何件募集中ですか
- この物件の入居者層は、5年前と比べて変わりましたか
- 今後3年で、このエリアに新築の供給予定はありますか
- この物件を今のターゲットのまま続けるべきですか、変えるべきですか
5番に踏み込んだ回答ができる会社は、市場を見ています。「今のままで大丈夫です」で終わる会社は、変化を追っていない可能性があります。
まとめ
- 全国の空き家率は13.8%と過去最高。ただし増加の主因は「その他の空き家」で、賃貸市場の直接の競合ではない
- 賃貸需要は人口ではなく世帯数で決まる。市場は「縮む」より「二極化する」と捉えるほうが実態に近い
- 札幌の変化は3つ。ファミリー層の賃貸回帰(追い風)/高齢入居者の増加(備えれば機会)/学生向けの競争激化(逆風)
- 「大学の近くだから大丈夫」という前提はすでに崩れている
- 高齢者は断るのではなく、モデル契約条項・保険・見守りで備えて受け入れる
- 管理委託率の上昇は、賃貸経営が「持っていれば入る」から「運用で差がつく」に変わったことの表れ
市場の変化は、全国平均ではなく自分の物件のエリアとセグメントで見るものです。まずは管理会社に、直近1年の成約賃料の動きと競合の件数を聞いてみてください。そこから打ち手が具体化します。




