インボイス制度が始まったのは2023年10月。すでに運用に乗っている制度ですが、2026年10月1日に大きな区切りを迎えます。免税事業者との取引で認められてきた「80%の控除」が、この日を境に70%へ引き下げられるからです。
あわせて、小規模事業者の負担を軽くしてきた「2割特例」も2026年9月30日で終了します。店舗や事務所、駐車場を貸しているオーナーにとっては、いま動くかどうかで来年以降の交渉の立場が変わるタイミングです。
この記事では、まず自分の物件が影響を受けるかを判定したうえで、何がいつ変わるのか、負担額はいくらなのかを具体的な数字で整理します。
※ 2026年10月1日から控除割合が70%に引き下げられます(2026年8月時点)
まず確認:あなたの物件は影響を受けるか
インボイス制度は消費税の仕組みです。したがって、消費税がかからない取引には関係がありません。賃貸経営では、ここが最初の分かれ道になります。
住宅だけを貸している場合 ─ 影響はありません
居住用の住宅の貸付けは消費税が非課税です。アパートやマンションを住居として貸しているだけであれば、インボイス制度の影響を受けません。登録の検討も不要です。
これは札幌の賃貸オーナーの多くが該当するケースです。ニュースで「インボイス」と聞いて不安になった方も、まずここを確認してください。
店舗・事務所・駐車場を貸している場合 ─ 影響の可能性があります
一方、次のような貸付けは消費税の課税取引にあたります。
- 店舗、事務所、テナントスペースの賃貸
- 倉庫、工場としての貸付け
- 家賃とは別に駐車場代を受け取っている場合の駐車場
ただし、課税取引だからといって必ず影響が出るわけではありません。借主が消費税の課税事業者かどうかで状況が変わります。
影響が出るのは、この組み合わせのときだけ
| オーナー | 借主 | 影響 |
|---|---|---|
| 免税事業者 | 課税事業者(法人・個人事業者) | 影響あり |
| 免税事業者 | 免税事業者・一般個人 | 影響なし |
| 課税事業者(登録済み) | どちらでも | 影響なし |
つまり、オーナーが免税事業者で、借主が課税事業者のときだけ問題になります。借主は支払った消費税を控除できなくなり、そのぶん自社の納税額が増えるためです。
2026年10月1日から、控除割合が80%→70%に下がる
制度開始時、国はいきなり全額を控除できなくするのではなく、段階的に引き下げる経過措置を設けました。このスケジュールが令和8年度税制改正で見直され、引き下げのペースが緩やかになった一方で、最終的にゼロになる時期は先送りされています。
改正後の引き下げスケジュール
| 期間 | 借主が控除できる割合 |
|---|---|
| 2023年10月1日 〜 2026年9月30日 | 80% |
| 2026年10月1日 〜 2028年9月30日 | 70% |
| 2028年10月1日 〜 2030年9月30日 | 50% |
| 2030年10月1日 〜 2031年9月30日 | 30% |
| 2031年10月1日 以降 | 0%(控除できない) |
改正前は80%から一気に50%へ下がる予定でしたが、間に70%と30%の期間が入り、5段階になりました。猶予は延びたものの、いずれゼロになるという方向は変わっていません。
2割特例は2026年9月末で終了、個人には3割特例
免税事業者からインボイス発行事業者になった人の納税額を「売上にかかる消費税の2割」に抑えられる2割特例は、2026年9月30日を含む課税期間で終了します。個人事業者であれば2026年分が最後です。
その後継として、個人事業者に限って「3割特例」が設けられました。2027年分・2028年分について、納税額を売上税額の3割とできるものです。法人はこの特例の対象外である点に注意が必要です。
数字で見る:借主の負担はいくら増えるか
抽象的な割合だけではピンとこないので、具体的に計算します。店舗を月20万円(税抜)で貸していて、オーナーが免税事業者、借主が課税事業者というケースで考えます。
消費税は月2万円。このうち借主が控除できない部分が、借主の実質的な負担増になります。
| 時期 | 控除割合 | 借主の負担増(月) | 年間 |
|---|---|---|---|
| 2026年9月まで | 80% | 4,000円 | 48,000円 |
| 2026年10月から | 70% | 6,000円 | 72,000円 |
| 2028年10月から | 50% | 10,000円 | 120,000円 |
| 2031年10月から | 0% | 20,000円 | 240,000円 |
2026年10月の時点では、年間で2万4千円の増加です。この程度なら借主も静観するかもしれません。しかし2028年10月に50%へ下がると、負担増は年12万円になります。ここが、借主から具体的な相談が来る可能性が高くなる水準です。
つまりいま慌てて結論を出す必要はないが、2028年を見据えた判断は必要ということになります。
オーナーが取りうる3つの打ち手
打ち手① インボイス発行事業者に登録する
借主との関係は最もクリーンになります。ただし登録すると免税事業者ではなくなり、消費税の納税義務が発生します。
先ほどの例(月20万円・年間240万円の賃料)で考えると、簡易課税制度を選択した場合、不動産賃貸業はみなし仕入率40%の第六種事業にあたるため、納税額はおおむね年14万円台という規模感になります。借主の負担増(2028年以降で年12万円)と近い金額です。
どちらが得かは、賃料の額・物件数・借主との力関係で変わります。ここは税理士に試算してもらう価値がある部分です。
打ち手② 免税事業者のまま据え置く
借主が免税事業者や一般個人であれば、そもそも影響がないため据え置きが合理的です。まず借主の状況を確認するのが先決になります。
借主が課税事業者の場合でも、負担増が小さいうちは大きな問題になりにくいでしょう。ただし次回の更新交渉や、退去後の新規募集のときに条件として出てくる可能性は想定しておくべきです。
打ち手③ 賃料を調整する
登録せずに、借主の負担増ぶんを賃料で調整する方法です。ただし一方的な減額要求や、優越的地位を背景とした取引条件の押し付けは独占禁止法上の問題となる場合があります。あくまで双方の合意にもとづく交渉として進める必要があります。
札幌のオーナーが見落としやすい2つのケース
ケース1:月極駐車場を事業者に貸している
札幌は車の保有率が高く、月極駐車場を別契約で貸しているオーナーは少なくありません。家賃とは別に駐車場代を受け取っている場合、その駐車場の貸付けは消費税の課税取引になります。
借主が近隣の店舗や事業所(法人契約)であれば、インボイスの対象です。「うちは住宅だけだから関係ない」と思っていても、駐車場だけが該当していたというケースがあり得ます。
なお、住宅の貸付けに付随する駐車場で、一戸あたり一台分以上が確保され、かつ家賃と別に駐車場代を収受していない場合は、住宅の貸付けに含まれ非課税として扱われます。
ケース2:1階が店舗、2階以上が住宅の併用物件
札幌の幹線道路沿いや地下鉄駅周辺には、1階に店舗が入り上階が住宅という併用物件が多くあります。この場合、住宅部分は非課税、店舗部分は課税と扱いが分かれます。
物件単位ではなく契約単位で判定するという点を押さえておいてください。
いま確認しておきたいこと
- 所有物件の契約のうち、住宅以外の貸付けがどれだけあるか洗い出す
- その契約の借主が課税事業者かどうかを確認する
- 該当がある場合、賃料に対する消費税額と、想定される負担増を計算する
- 2割特例を使っている場合、2026年9月末で終了することを前提に来期以降の資金繰りを見直す
- 登録を検討するなら、簡易課税を選択した場合の納税額を税理士に試算してもらう
これらの契約状況の棚卸しは、管理会社に依頼すれば整理してもらえることが多い項目です。契約単位で課税・非課税を把握できているかは、管理体制の質を測るひとつの目安にもなります。
この記事について
本記事は制度の概要を一般的に解説したものであり、個別の税務判断を提供するものではありません。実際の登録判断や納税額の試算にあたっては、必ず税理士または所轄の税務署にご相談ください。
また、税制は改正されます。掲載しているスケジュールは令和8年度税制改正にもとづく2026年8月時点の内容です。最新の情報は必ず国税庁の公表資料でご確認ください。
参照した情報
- 仕入税額控除の経過措置の延長・2割特例の終了・3割特例の新設:令和8年度税制改正の内容にもとづく(ソリマチ株式会社、一般社団法人 神奈川青色申告会 ほか、2026年8月調査)
- 住宅の貸付けの非課税、駐車場の取扱い:消費税法および国税庁タックスアンサー




